今秋はファッション系の展覧会が目白押し。都内だけでも結構な数が開かれていて、ゲームオーバー寸前のテトリスのごとく用務の合間にねじこんで観に行っている。今回はいわゆるハイブランドにフォーカスした三展を振り返ります。
- ファッション展覧会と私
- 永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル:ハイジュエリーが語るアール・デコ@東京都庭園美術館
- 刺繍とテキスタイル100年の物語@東京シティビュー&森アーツセンターギャラリー
- ブルガリ カレイドス:色彩・文化・技巧@国立新美術館
- 公立美術館でファッション展を開くこと/観ること
ファッション展覧会と私
ハイブランドの品を身につけたり集めることに興味はないけれど、技法の解説やデザイナーの思いに耳を傾けながら製作過程を覗いたりプロダクトを鑑賞するのは好き。ここで紹介するような大型美術館での企画展のほか、文化学園服飾博物館やISSEY MIYAKEの旗艦店内にあるギャラリーなんかは時季を問わず服飾の展示をやってるのでよく足を運んできた。
永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル:ハイジュエリーが語るアール・デコ@東京都庭園美術館
アール・デコ博覧会開催100周年を記念した展覧会。博覧会の宝飾部門でグランプリを受賞したヴァンクリの作品《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》(1924年)がメインビジュアルを飾る。アール・デコ建築の旧朝香宮邸が舞台に選ばれるのも納得です。

日常の場で纏っても違和感のない小ぶりなデザインや自然をモチーフにした作品が多かった。旧朝香宮邸というやんごとなき方々の住まいを背景に据えることで、貴婦人が日々の生活の中でジュエリーやパウダーケースを手に取っている様子を想像しやすい。
近年はシンプルなアルハンブラのイメージが強いヴァンクリだけど、挑戦的なモチーフやデザインも多くて面白い。男性物とされるネクタイをジュエリーとして再解釈したネクタイネックレス。南京錠の構造を時計に落とし込んだカデナ・リストウォッチ。こちらの時計は文字盤が着用者だけに見える構造になっていて、「女性は人前で時計を見るもんじゃない」という当時の社会規範と機能性の両立を目指している。
新館エリアではメゾンのサヴォアフェール(匠の技)にスポットが当たる。爪を見せずに貴石を留めるミステリーセットやジップネックレスなど特許技術が映像資料とともに紹介されていた。特にジップネックレス向けのゴールド成形が秀逸。ゴールドは柔らかく加工しやすい素材だけど、ファスナーとして耐久性が求められるしデザイン性だってほしい。そんな幾重もの要求にタッセルのアレンジや装飾で応えるだけでも見事なのに、さらにブレスレットに変形できる仕様までつけてくる。こちらの想定を超える職人技にヴァンクリのイメージが刷新された展示でした。先週末開幕した三菱一号館美術館のアール・デコとモード展もセットで観たい。
刺繍とテキスタイル100年の物語@東京シティビュー&森アーツセンターギャラリー
2021年にシャネルがパリに設立した工房・アトリエを擁する複合施設「le19M」の巡回展。プロダクトではなく職人さんが日頃手にしている道具や素材を前景化させるインスタレーション展示が印象的だった。


『25ans』とか眺めているとハイブラアパレルの価格に目玉が飛び出そうになるが、職人の養成も含めてメゾンが投じている資金や手間を知ると、たとえばCHANELのツイードジャケットが100万円と言われても「うん、相応だね!」と思えてくる。
もう一つこの展覧会には面白い仕掛けがあって、展示の終盤で刺繍のワークショップをやっていた。長机の上に大きな布地がかけられており、来場者は簡単なレクチャーを受けて交代で刺繍を刺していく。布地には大きな鳥モチーフのガイドラインが印されていて、スパンコール、竹、花など好きなパーツを思い思いに足してよい。

20年ぶりの刺繍。はじめこそ久しぶりに針を持つ手が震えたものの、たまたま居合わせた人たちと椅子を並べて黙々と作業するのは存外面白かった。自分の手を動かすことで、メゾンを支える職人さんたちも日々こうして運針していることを再認識する。そして見知らぬ人たちと刺した布地がこの展覧会と一緒に巡回していくことに思いを馳せたひと時でした。
ブルガリ カレイドス:色彩・文化・技巧@国立新美術館
色彩を切り口にしたブルガリのジュエリー展示。10年ほど前にも同会場でブルガリ展を観たことがあるけれど、今回は貴石自体が持つ魅力に焦点が当たっていたように思います。前半部分では三原色や補色といった色彩原理を下敷きにしながら色別にメゾンの代表作を紹介。貴石が持つ色の力もさることながら、戦前の品でもカットが綺麗で溜め息が洩れっぱなしだった。

展示室の空間づくりやインスタレーションも展示の流れをぶった切ったり違和感を持たせるものではなくてよかった。内装は落ち着いた色味ながら重厚感があって神殿っぽいなぁ…と思っていたら、古代ローマの浴場から着想を得ているそう。スペースにゆとりがあって独立式の展示ケースが多く、外周をうろうろ歩きながら貴石の煌めきの変化を楽しめるのもよい。合間合間のインスタレーション展示はテーマにあったもので、色彩が渦巻くララ・ファヴァレット《レベル5》インスタレーション、古事記に着想を得たクリスタルのプリズムが美しい森万里子《オノゴロストーンⅢ》、それぞれ展示のキーとなる色彩の科学とスピリチュアル・文化的意味を象徴するような作品でした。
個人的に見方が変わったのは、蛇をモチーフにしたセルペンティ。最初の出会いが銀座旗艦店の外壁に巻き付くあれだったこともあって趣味に合わん…と敬遠していた。あらためてコレクションを一望してみると、異素材が織りなす色艶の幅広さや留め技術の高さに惹かれる。

今年は巳年しかも年女なので何だか縁があるように思えてくる(経済的には絶対ないが)。メゾンが提示する感情表現や幸運の媒介物としてのジュエリーという考え方は今の自分に馴染まないけれど、少なくない人がジュエリーを持ちたくなる理由は本展を通じて分かってきた気がする。
公立美術館でファッション展を開くこと/観ること
「どの展覧会も楽しかった」「メゾンの新たな魅力に気付かされました」で締めてもよかったんだけど、引っかかっていることを書き留めておく。特にヴァンクリとブルガリ展に関してはメゾンの全面協力ありきの展覧会なので広報装置っぽくなるのは仕方ないんだけど、メゾンやプロダクトへの批評性がほとんどないのが気になった。関連して昨年読んだ平芳裕子さんの『東大ファッション論集中講義』「第7講 展示と鑑賞:ミュージアムのファッション展」で取り上げられていたファッションの流行性と美術館の使命の緊張関係の話を思い出した。公立美術館ならプロダクトに魅力を見出す主体やその理由を相対化するような視点も教えてほしい。同じ時代を生きているメゾンを取り上げるのであればなおさら。